「血糖」とは血液中のグルコース濃度のことですが、
その数値を測定するためには今は血糖測定器や間質液中グルコース測定器などを用いています。
血糖測定器が開発される前はどのように血糖を測っていたかというと、
なんと医師が直接尿を舐めていたようです。
今回は、血糖とハチミツの関係を調べてみました。
血糖測定の歴史
「糖尿病」(Diabetes mellitus)の語源はラテン語で
「蜂蜜のように甘い尿がサイフォンのように出る」
Diabetes=サイフォンのように水を通す
※サイフォンとは高い場所から低い場所へ、一度高いところを越えて水をくみ出す装置のこと。
Mellitsu=蜂蜜のように甘い
という意味だそう。
ここで言わんとしていることは、
ちょろちょろと細い管を通じて多量に流れ出てくる様子ですね。
(灯油を移し替える時のイメージ)
実際に、糖尿病では口渇・多飲・多尿が主症状として出てきます。
日本でも明治時代までは「糖尿病」ではなく、
「蜜尿病」と呼ばれていました。
蜂蜜の主成分が糖であると知られてから呼称が変化したようです。
血糖測定器が出現するまでは、サイフォンのように出てくるお小水を舐めて
「蜂蜜のように甘い!」と診察していたとは、
当時の苦労が伺えます。
「蜜尿病」はいつごろから認識されていたのか?
糖尿病の最も古い記録は紀元前1500年ごろ、
古代エジプトの新王国時代に書かれた医学パピルス(エーベルス・パピルス)に記載されているといいます。
また、紀元 1〜2世紀に成立したとされる、
古代インド医学(アーユルヴェーダ)の医学書(チャラカ・サンヒター)や、
前漢の時代(紀元前206年〜8年)に書かれたとされる、
中国の医学書(黄帝内経素問)では「消渇」という呼称でも登場しているようです。
上記の内容以外でも、
個人的に蜜尿病に関連する記載では?と思うものがありますが、
それは旧約聖書に出てくる以下の聖句
箴言25章27節
蜜を多く食べるのはよくない、ほめる言葉は控え目にするがよい
旧約聖書の箴言は古代イスラエル王国の第3代の王ソロモン(紀元前971〜931年)によって書かれたとされています。
余談ですが、
ソロモン王の名言(迷言?)
「いっさいは空(くう)である」
王としての権勢、名誉、家庭、物質、財産、全てを得たソロモンが放った言葉です。
なぜ「すべて虚しい」と言ったのか?
旧約聖書の伝道の書2章4〜18節(同じく、伝道の書もソロモンが書いたと言われている)を
簡単に要約すると、
「わたしは大きな事業をして、家も建てて、畑も、庭も素敵に作った。召使もたくさんいるし、国々も財宝も集めたし、自分を楽しませてくれる人々もはべらせておいた。過去の誰よりも大きい人になったし、知恵もある。しかし、このすべて得たものとそのためにした労苦を思うと虚しい。なぜなら、その功績は長く覚えられるものでもなく、自分がした労苦は後世に残さないといけないから(死んでから持っていくことはできない)である。」と語っています。
その上で、
「わたしは知っている。人にはその生きながらえている間、楽しく愉快に過ごす他に良い事はない。
またすべての人が飲み食いし、そのすべての労苦によって楽しみを得ることは神の賜物である。」(伝道の書3章12〜13節)
と自分が得たものはすべて神が賜ったものであり、
神に感謝しながら、
心の幸福を得て生きる生について述べています。
富も栄華も極めたソロモン王だからこそ、
蜂蜜を食べすぎると起こる「蜜尿病」も当然身近な病気あっただろうことが予想されます。
また、だからこそ「言葉」を食べ物として喩えて、
褒め言葉=蜂蜜として表現し、教訓を与えているのかもしれない?と思うのです。
ハチミツの価値
蜂蜜は約80%の糖質と約20%の水分、
そして他にも、ビタミン、ミネラル、タンパク質などの成分からできています。
糖質の約80%は果糖とブドウ糖であり、ショ糖は5%以下です。
ショ糖とは、果糖とブドウ糖が結合した糖質のこと(別名スクロース)のことで、砂糖の主成分です。
小腸での消化が必要なショ糖とは異なり、果糖とブドウ糖はそのまま吸収されるので腸への負担がかかりません。
また、蜂蜜にはイソマルツロースというという二糖類が含まれています。
イソマルツロースはショ糖と同じエネルギー(4kcal/100g)でありながら、
吸収速度がショ糖の5分の1と言われています。
つまり蜂蜜は“血糖スパイクを起こしにくい“糖質だということです。
糖質の吸収速度は『GI値(グリセミックインデックス値』という食品が血糖値を上昇させる速度と関連しており、
砂糖と比較して蜂蜜の方がGI値が低い理由がイソマルツロースの存在だと考えられています。
注意点としては、
あくまでも砂糖と比較し場合のことなので、
蜂蜜が糖質のかたまりであるというのはあるので摂りすぎは禁物です。
果糖とブドウ糖のちがい
ブドウ糖(別名グルコース)は血糖値の測定対象であり、たくさん食べると血糖値が上がります。
しかし、果糖(別名フルクトース)は血糖測定器では検出されません。果糖は蜂蜜だけでなく、果物にたくさん含まれています。
特に、グルコースよりフルクトースの方がより甘いという特徴があり、またより低温で甘く感じるので、
冷やすと甘い果物(ブドウ、りんご、ナシなど)ほど果糖が多く含まれます。
「え、そうしたらいくら果物を食べても血糖値は上がらないの?」と思うかもしれません。
そうではありません。フルクトースは小腸でグルコースに変換されます!
つまり、食べたら食べた分、きちんとブドウ糖として血中に存在しています。
そして、最近の研究では、フルクトースの過剰摂取(つまり果糖の摂りすぎ)は腸のフルクトース代謝能力を圧倒し、
過剰なフルクトースはそのまま肝臓や大腸微生物のもとへと運ばれてしまい、肝臓毒となる可能性があることがわかっています。
まとめ
血糖値は血中のブドウ糖のことを言いますが、かといって果糖を摂りすぎても良いということではありません。
糖尿病は紀元前から人類を悩ませてきた疾患であり、その歴史は深いです。
昔は蜜尿病と言われて糖尿病の語源にもされていましたが、ハチミツ自体は砂糖よりもGI値が低く、血糖スパイクを抑えるには有能な食材です。
参考文献:
糖尿病ネットワーク
TAWARA養蜂ライブラリー(2019)
The Small Intestine Converts Dietary Fructose into Glucose and Organic Acids(Cell Metabolism 27,351~361)
「スイーツや料理を美味しく感じる」科学(シリーズ ものづくりと学問)